映画「かぞくのくに」
映画「かぞくのくに」
来る8月4日(土)よりテアトル新宿、109シネマズ川崎ほか全国順次公開となる映画「かぞくのくに」(監督・脚本:ヤン・ヨンヒ/配給:スターサンズ)。

ヤン・イクチュン の最新ニュースまとめ

 同映画は1950年代に始まった帰国事業で北朝鮮に渡った在日男性が治療のため3か月限定で四半世紀ぶりに日本に戻り、妹ら家族と再会するというストーリー。出演は、安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみほか。

 今回、韓国人キャスト、ヤン・イクチュンのオフィシャルインタビューが届いた。

<b>-出演をオファーされた時の心境はいかがでしたか。</b>
この役をお引き受けすべきかどうか最初はかなり悩みました。というのも、ヤン監督からオファーをいただいた頃、私自身が心身ともに疲れ果てていた状態だったからです。企画・脚本・主演を担当した「息もできない」が2009年に公開された後、予想もしなかったほど多方面から祝福と賛辞の言葉をいただきました。もちろんとてもうれしかったのですが、そういう身に余る光栄のおかげで自分でも気付かないうちにバランスを崩したり、どこかでストレスを感じていたのだと思います。無理に何かをやるということに対して本能的にストップがかかっていた…。「息もできない」の日本公開でとてもお世話になったスターサンズの河村(光庸)社長を通じてコンタクトがあったのは、ちょうどその頃でした。脚本を読めば、ヤン・ヨンヒという監督さんがこの映画で背負っているものの大きさは、おそらく誰にでも分かります。そういったかけがえのない作品に、コンディションが万全ではない状態で参加させてもらうのが正しいのかどうか…。悩んだというのは、そういう意味合いです。

<b>-それでもなお出演を決めた理由は何だったのでしょう。</b>
シンプルですが、やはり物語への共感が迷いを上回ったということだと思います。少し裏話をしますと、まだ結論を出しかねていた際に、ヤン監督と河村社長から「直接会って話がしたい」と連絡をいただきました。おかげで短期間で否応なく、自分の気持ちと向き合わざるをえなくなってしまった(笑)。そうやって集中して考えてみると、初めて劇映画を手がけようとしているヤン監督は、今の自分よりずっとたくさん悩むことを抱えているはずです。また実際にお会いして話してみると、いろいろな経験を重ねてこられた方だけあって、私の心境やコンディションについても親身に耳を傾けて理解してくださいました。こういう監督さんとなら、もし現場で(自分のせいで)うまくいかない事態が生じても、一緒に切り抜けられるんじゃないか…、そう感じて、参加させてもらうことに決めたんです。

<b>-共演してみて、女優の安藤サクラさんの印象はいかがでしたか。</b>
演じるという行為に対して、いい意味でとても自由な方に見えました。女優の中には、あらかじめ役柄のイメージをきっちり定めてきて、その領域から積極的には出てこようとしない人もおられます。でも彼女はそうではない。表現の可能性をもっと広く捉え、その瞬間に求められているものに応じて自分を変えていけるよう、ある種、開かれたタイプの女優さんのように私には見えました。今回の現場でも、無理にリエを演じている感じはまるでしなかったし(笑)。

同じことはソンホ役の井浦新さんにも言えると思います。彼がもともと持っている雰囲気がソンホに合っていたのでしょうし、表現者としての新さんが演技のテクニックより、とりあえず役を生きてみるタイプの役者さんであることが、この作品をより豊かなものにしている気がします。

<b>-北朝鮮の訛りをマスターするのにはかなり苦労されたとか…。</b>
私自身それまであまり意識してなかったのですが、語彙やイントネーションを含めて、韓国と北朝鮮ではかなり言葉が違うんです。同じ単語で使い途が異なるケースも少なくありません。しかも今回は、参加を決めてからあれよあれよといううちに撮影が始まってしまって。韓国の場合、多くの制作システムではクランクインの前に1~2か月の準備期間を設けるのが普通ですが、じっくり役にアプローチしていく余裕がありませんでした。

これが普通のアクション映画であれば、さほど神経質になる必要はなかったかもしれません。でも、こういうデリケートな主題を扱っている以上、言葉や所作などには最低限のリアリティが求められます。本作が描いているのと同じような経験を実際に経験してきた在日コリアンの方々、あるいは韓国で暮らしている脱北者の方々が見た時、もし私の言葉使いのせいで作品に感情移入できなかったとしたら、それは役者として恥ずべきことだと思うからです。

<b>-以前イクチュンさんは自作「息もできない」について「30年間生きてきた日記を一気に書き下ろしたような作品」と表現されました。同じ意味で本作に、創作者としてシンパシーを感じた部分もありますか。</b>
もちろん、それはありますね。ヤン監督はこの映画の前に2本のドキュメンタリー作品を撮っていて、ご自分でナレーションも担当しておられますから、その部分は(「息もできない」が処女作だった)私とは異なりますが…。たまっていた思いを物語に託して一気に吐き出したという意味では、少なくとも私の側には深く共感するところがありました。

もちろんこの作品がヤン監督にとって本当はどんな意味を持っていて、見た人がそこに何を読みとるべきなのかは、私には分かりません。でも一つ確実に感じることがあります。それはヤン監督が、おそらくずっと「家族」というテーマと向き合っていかれるだろうということです。本作のように北朝鮮という現実の体制をダイレクトに描かなかったとしても、あるいはドキュメンタリーかフィクションかという手法の違いを超えて、その根本の部分は変わらないのではないだろうかと。

実は私も同じなんです。「息もできない」がそうであったように、家族という存在を抜きにして物語を作ることはできないと思うんですね。ですから私の今の願いは、この映画が多くの観客にきちんと届いて、ヤン・ヨンヒ監督の次回作が見られるようになること(笑)。そして、いつになるかは分かりませんが、私自身も次回作を世に送り出せればいいなと。

<b>-最後に、この映画をご覧になる方に向けてひとことメッセージをお願いします。</b>
ここに1本の新しい映画が生まれました。それは見る人に単なる娯楽や刺激を与えるための作品ではありません。そこでは一人の作家が長いあいだ抱え続け、自分では解説できなかった問題が、ある家族の物語へと昇華されています。きわめて個人的でありながら、誰もが共有できる物語です。その意味では広く世界中の方に見てもらえるとうれしいですね。特に日本と韓国の観客にとって、本作に登場する家族は遠い存在ではありません。文字通り自分たちの隣人であるはず。問題の根は深く、現実はそう簡単には動きません。しかし、全ては知ることから始まります。この映画が、2つの国の観客が一緒に悩み、一緒に幸せになるささやかな契機になればいいと願っています。


「かぞくのくに」
8月4日(土)よりテアトル新宿、109シネマズ川崎ほか全国順次公開
監督・脚本:ヤン・ヨンヒ
出演:安藤サクラ、井浦新、ヤン・イクチュン、京野ことみ、諏訪太朗、宮崎美子、津嘉山正種
配給:スターサンズ 
(C)2011『かぞくのくに』製作委員会

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