最近立て続けに外国からお客さんが東京に来ました。四十九年ぶりに日本に来た恩師。
高校のときの担任だったC先生が遺書をしたためて、ワシントンから青春時代を過ごした東京に来ました。その間音信不通で先生から電話を頂いたときにはビックリしました。
どうして私の携帯番号がわかったのか驚きでしたが、高校のホームページを見て懐かしさのあまり電話をしたそうで、韓国の高校の同窓会六十周年の集いに出席するので、もしかして日本のみんなと連絡が取れるなら寄っていきたいとのことでした。
高校時代の先生は二十代後半の正義感の強い青年で、その真っ直ぐな性格は暴れん坊や不良学生にとっては怖い存在でした。もちろん私のような優等生(!? )にはその鉄拳はあずかりしらないことでしたが、怖さは伝染してビビっていました。
がんの手術を四回受けて最後の旅行とおっしゃった割には先生はお元気で、とても八十歳には見えませんでした。記憶力も確かで生徒だった私たちよりも昔のことをよく覚えているのでとても遺書をしたためた人には思えません。
その姿はあたかも昔の朝鮮王朝時代の「ソンビ」のようでした。権力におもねることなく、たとえ相手が王様でも志を曲げず是々非々をただす士大夫そのものです。たとえ貧しても正義を貫くその強さこそ今日の韓国を下支えしてきました。
よく韓国は法よりも権力や人間関係が幅を利かし、腐敗した両班が映画などで描かれていますが、この「ソンビ」はたとえ命を脅かされても筋道を守り通しました。
このような「知識人」がいたからこそ、それなりに韓国が保たれていると言っても過言ではありません。
先生のそのストレートな性格で、四泊五日の滞在中ずっと、教え子だったみんなに人生とは何かを話し続けられたので正直閉口しました。もっともな話でも何回も繰り返されると敬遠したくなります。しかもその話が当を得ているからなおさら困ります。
六十歳を過ぎた私たちでも先生にとっては教え子であり、頼りなく思うものだと聞いておりましたが、まさにその通りでした。韓国のドラマでも親が子どもに溢れる愛情を注ぎ干渉するシーンがよく出てきますが、それを重いと感じていてもいざというときには間違いなく全身全霊で教え子の危機を救うんだという気持ちが伝わるので、黙って聞くほかありません。
「話は半分でいいですからいざというときには全身全霊で助けてください……」とはいきません。熱い気持ちは時には迷惑であっても時には命の恩人になるのですから。つまりセットであり、裏表ですから。
●親しき仲には礼儀なし
恩師の情の熱さから来る過剰な愛は暑苦しくもありますが、頼りがいがあります。愛するものと自分は一体だという愛情の表現は距離をとりたがる日本人にとっては受け入れづらいかもしれません。
韓国人の「情の熱さ」は「ウリ」という言葉で一つになります。ハグをしたりするスキンシップも日本よりは自然です。恩師に続いてもう一人のお客は元同僚の夫婦でした。
航空会社にいるときはお互いにライバルでしたが、今は懐かしい戦友として迎えました。
特に奥さんと一緒でしたから余計に神経を遣いました。我々団塊の世代は家庭を顧みず仕事一筋に突っ走ってきただけに、罪滅ぼしのため他人の奥さんでもおろそかにしません。
スカイツリー、浅草見物、銀ブラ(銀座をぶらぶら歩くこと)、上野公園散策、ゴルフとそれなりにケアした二泊三日だったと思いましたし、喜んでもくれました。
けれどもソウルに帰ったきり電話一本ありませんでした。
なんと恩知らずな韓国人だとお怒りになるのが日本人の感性で、日本の生活に浸かっていた私も一瞬「アレッ」と思いましたが、親しい間柄で「ありがとう!お世話になりました!」と述べることは「他人行儀で一体化していない」と思うのが韓国です。
この違いを理解しないと「こちらがもてなした」のに「何だ、挨拶の一つもない」と勘違いし、両国とも距離が近く似たような文化を共有していると思いがちなだけに根に持つようになります。
●その後
後日、その同僚とソウルで会ったとき、東京でお世話になったからと豪勢な夕食に招待されました。
●もっと韓国を知るためのことば
キップン ジョン ジャン ジョン 深い情と細やかな情
言葉通りの意味ですが日本と韓国の情の在り方を表現しているようです。韓国は細かく気を遣う情よりは「どさっと」暑苦しいほど相手に情を注ぎますが、日本の人は引いてしまうのではないでしょうか。日本では「親しき仲にも礼儀あり」ですが、韓国では深い情を交わしたのに「何を他人行儀なことを……」「水臭い」といわれるのがオチです。韓国人は、例えばお中元、お歳暮などを送られてもいちいち礼状を出したり、会ってもありがとうと言わない方ですが、何かのときに「どさっと」返礼します。
※文=権鎔大(ゴン・ヨンデ)韓日気質比較研究会代表の寄稿。ソウル大学史学科卒業、同新聞大学院修了。出典=『あなたは本当に「韓国」を知っている?』(著者/権鎔大 発行/駿河台出版社)
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