【ソウル聯合ニュース】韓国政府が23日、国内の脱北者団体など民間団体に対し、北朝鮮向けに体制批判のビラなどをまく行為を自制するよう改めて求めた。ビラ散布は北朝鮮住民の人権状況の改善や外部の実情を知るきっかけにもなり得るもので、普遍的な価値として自由と人権を重視する尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が散布を控えるよう公に求めた背景が関心を集めている。 統一部のイ・ヒョジョン副報道官は同日の定例会見で「政府がたびたび自制を要請しているにもかかわらず、一部の団体によるビラなどの散布が続いている状況に対し、政府は憂慮している」と述べた後、散布の自制を求めた。 これは権寧世(クォン・ヨンセ)同部長官の見解とはややずれがあるといえる。同氏は5月、就任前の国会の人事聴聞会でビラ問題について「自由主義の観点からみるべきだ」と述べ、昨年3月に施行された改正南北関係発展に関する法律(南北関係発展法)に否定的な見解を示した。改正法は北朝鮮に向けた体制批判のビラ散布の禁止を盛り込んでいる。 統一部周辺では、朝鮮半島情勢で緊迫の度合いが増している上、ビラが韓国内のあつれき要因になりかねないこと、過去の保守政権でもビラ散布を禁じた前例があることを踏まえ、こうしたメッセージが出されたという受け止め方がある。 イ氏は会見で「政府は南北関係の敏感な状況などを踏まえ、ビラ散布を自制するよう民間団体に継続的に要請してきた」とも説明した。また「政府は国民の生命と安全を守るという最優先の義務がある」と強調し、ビラ散布を「不必要なリスクを招きかねない行為」と指摘した。 実際に韓国北部・江原道と京畿道の北朝鮮と境界を接する地域は、軍事的な緊張と住民の不安が強まっている。過去には韓国側から飛ばされて来た大型風船を北朝鮮軍が射撃したこともあった。また、革新系の市民団体が先ごろ脱北者団体を南北関係発展法違反で警察に告発するなど、国内で対立の兆しが見られる。 統一部はこうした状況を考慮し、今年5月、脱北者団体「自由北韓運動連合」にビラなどの散布を控えるよう遠回しに要請。7月には当局者の発言として公に自制を促した。 「表現の自由」と「境界地域の住民の安全」をはかりにかけた場合、後者に重きを置くべきとの声も高まっている。北朝鮮の人権問題を担当する国連のサルモン特別報告者は8月の来韓時の記者会見で、ビラ散布の権利は境界地域住民の安全や安全保障上の理由などにより制約され得るとの認識を示した。 保守政権だった李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権下では、北朝鮮が韓国に脅威を及ぼしたり境界地域で衝突が起きたりする可能性を回避するため、警察が計11件、ビラ散布を阻んだ前例がある。 尹政権は北朝鮮に対し、非核化措置に合わせた経済支援などを盛り込んだ「大胆な構想」と、朝鮮戦争などで生き別れになった南北離散家族問題の解決に向けた当局者会談を提案している。これらを前進させるためにもビラ散布を控えさせ、南北関係進展への本気度を北朝鮮に示したい考えのようだ。 北朝鮮は核政策を法制化するなど強硬路線を突き進んでおり、ビラを口実に韓国挑発に踏み切ることも懸念される。とりわけビラ散布は北朝鮮が極度に敏感に反応してきた問題だ。韓国の団体が散布を続ければ南北関係は悪化し続けかねない。 脱北者団体はここしばらく、大雨や台風などの影響でビラをまいていなかったが、北朝鮮の人権問題に取り組む韓米などの民間団体が今月25日から「北朝鮮自由週間」に入るのに合わせ、北朝鮮非難の動きを活発化させる可能性が高い。 韓国政府としてはビラが南北関係の新たな変数になることは避けたい。北朝鮮は2020年、ビラ散布に対抗して北朝鮮・開城の南北共同連絡事務所を爆破している。今年は、北朝鮮の新型コロナウイルス感染拡大は韓国の脱北者団体が大型風船で北朝鮮に飛ばしたビラや物資に付着したウイルスが原因と主張した。 北朝鮮の金正恩(
キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長は8月10日に開かれた全国非常防疫総括会議の演説で、ビラなどの散布が続く場合には「南朝鮮(韓国)当局の者たちも撲滅する」とすごんだ。韓国当局が脱北者団体のビラ散布を放置すれば報復もあり得るという露骨な威嚇だった。
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