<W解説>韓国の芸能事務所「HYBE」による同業「SM」買収、「『モンスター』エンタメ企業」誕生に伴う懸念(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国の芸能事務所「HYBE」による同業「SM」買収、「『モンスター』エンタメ企業」誕生に伴う懸念(画像提供:wowkorea)
世界的な人気グループ「BTS(防弾少年団)」などが所属する韓国の芸能事務所「HYBE」が、BoAや「東方神起」、「少女時代」などを擁する「SMエンタテインメント」の筆頭株主になることが発表された。HYBEは10日、競合するSMエンタの創業者、イ・スマン氏が保有する株式を約4200億ウォン(約440億円)で取得すると発表。HYBEの持分は14.8%となり、一気に筆頭株主になる見通し。韓国メディアは「超大型の『モンスター』エンタメ企業が誕生する」と衝撃を持って伝えた。

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HYBEの歴史は前身の「BIGHITエンターテインメント」が2005年2月、芸能プロダクションの「JYPエンターテインメント」から独立した作曲家のパン・シヒョク氏によって設立されたことに始まる。所属の「BTS」の世界的な人気を受けて一気に巨大企業へと成長した。一方、事務所の大黒柱の「BTS」は、最年長メンバーのJINが昨年12月から兵役に入っており、今後、しばらくはグループとしての活動ができない状況となっている。

一方、SMエンタは、前身の「SM企画」が1989年2月に設立した。韓国エンターテインメント界を代表する企業の一つであり、業界への影響力の大きさなどから「SM帝国」とも称される。経営の実権は創業者のイ・スマン氏が握ってきた。ちなみに社名に含まれる「SM」はイ氏の名「スマン(Soo Man)」から取っている。

両社はこれまで、それぞれのカラーやスタイルを持って競争し、着実に成長してきたが、HYBEは今月10日、SMエンタと資本提携すると発表。SMエンタ創業者のイ氏の保有株を買い取った上でTOB(株式公開買い付け)を実施し、同社株の約40%取得を目指す。

HYBE創業者のパン取締役会議長と、SMエンタのイ氏は共同声明を発表し、「両社の総力を結集し、グローバル市場でK-POPの地位をさらに高めていく」とした。HYBE側は「SMエンターテインメントの買収によって世界音楽市場でゲームチェンジャーに飛躍する」とのコメントを発表した。

突然の業界再編に衝撃が走ったが、韓国の有力紙・ハンギョレ新聞は「期待と懸念が交錯している」と指摘。「HYBEがSMを買収することになれば、シナジー効果によってグローバル市場での競争力が高まるだろうという観測が出ているが、K-POPの多様性が脅かされることになり得るという懸念が少なくない。時価総額11兆ウォン(約1兆2000億円)に達する単独企業が音楽産業を主導することになれば、中小芸能事務所の活躍の場が減り、格差がますます広がりかねないという声もある」と伝えた。

ある音楽業界関係者は同紙の取材に「所属会社の企画の方針はアーティストの音楽とスタイルを決めるため、1つのエンターテインメント会社にK-POPを主導するアーティストが多く所属することになれば、どうしても多様性は低下する」とし、「さまざまな芸能プロダクションが競争する構造ではなく、大型芸能プロが事実上独占する構造は、K-POP全体の発展にはあまり役立たないだろう」と述べた。また、別の関係者は「今でも大型芸能プロの所属でなければアーティストとしてデビューして知名度を上げるのが難しい構造なのに、『ビッグ4』(HYBE、SMエンタテインメント、JYPエンターテインメント、YGエンターテインメントの韓国4大芸能事務所)の構造が崩れ、HYBEの規模がより一層大きくなれば、中小芸能事務所やインディーズ音楽界は一層立場が狭まり、多様性は消えるだろう」と懸念した。

また、今回の資本提携にはSMエンタの現経営陣も反対しており、10日、取締役や管理職、計25人の連名で「反対声明」を発表した。イ氏は近年、自身が保有する企業とSMエンタの商取引をめぐる問題でSMエンタの現経営陣と対立している。声明では「われわれはHYBEを含む外部の敵対的M&A(合併・買収)に反対する。特定株主による私物化に反対し、株主権利保護のために最善を尽くす」とした。

HYBEにとってSMエンタ株の取得には、アーティスト基盤を固めることで現在グループ活動休止中の「BTS」の不在の穴を埋める思惑もある。しかし、SMエンタの現経営陣が資本提携に反対していることから、HYBEの戦略通りに事が進むかは不透明で、今後の展開が注目される。

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